小説 幽霊撮りの夜

小説を書く練習として書いた作品です。


「幽霊を撮りに行くぞ」
 写真部の部室に桜田先輩の声が響く、といってもこの部室には私しかいない、という事は桜田先輩は私に声を掛けているのだろう。
「ええっと、それって私に言ってます?」
「もちろんだ、ここには君しかいないだろう?」
「そうですけど、それにしたって唐突じゃないですか?幽霊を撮るだなんて」
 先輩はいつも唐突だ、この前は爆発が起きる瞬間を撮りたいなどと言って大量の火薬を持ち込んできたんだっけ。
「そう、現れたんだよ!俺の高校に幽霊がな!」
「別に先輩の高校じゃないと思いますけど」
「ともかくだ!今日は俺と学校に張り込むぞ、俺と一緒に幽霊を激写してこの写真部の名を轟かせてやるんだ!」
「いや、勝手に決めないで下さいよ、家に帰りたいし、勝手に夜の学校にいちゃだめだと思うんですけど」
「関係ないね!君は俺と張り込みだ!」
「イヤです」
「張り込みだ!」
「イヤです!」
 このようなやりとりを続けてからおよそ5時間後、私は先輩と一緒に夜の学校の廊下に立ち尽くしていた。
「いいか、幽霊は夜9時になるとこの廊下に現れるんだ、シャッターチャンスを逃すんじゃないぞ?」
「いやもういいですけど…幽霊ってそんないつも現れるものなんですか?現れない可能性もあるんじゃ?」
 正直現れないなら現れないでいいのだが…しかし先輩自信満々な様子で私の言葉を否定した。
「いや、そこは大丈夫だ、実を言うと幽霊を見に行った奴らは十中八九幽霊を目撃してるんだよ、俺らの時だけ現れないなんてちゃんちゃらおかしい」
「はぁ、そうですか」
 私は気にない返事をしながらスマホを見る、時刻は8時59分、後1分で幽霊が現れる時間である、スマホを見るのをやめて顔を上げる。
 するとそこには長い髪の女性が立っていた、もしかしてこれが幽霊?そう思いながら先輩に視線を移すと先輩は既にカメラで写真を撮っていた。
「よし!撮影に成功したぞ!」
「先輩、これって本物の幽霊…あっ逃げた!」
 幽霊が走って逃げて行く、長い髪に目がいったけどよくよく見るとうちの制服を着てるし足があるしあれって幽霊ではなく生身の人間なのでは…
 しかし先輩は気にした様子もなく幽霊を追いかける、どうやら先輩は彼女を本物の幽霊と思っているらしい。
 そして私たちが幽霊を追いかけることおよそ5分、私たちは屋上にやってきていた、ここなら幽霊は逃げることはできない。
「さぁて、幽霊にインタビューといこうか、と言っても幽霊がまともに喋れるかどうかはわからんが」
「喋れるわよ、私は幽霊なんかじゃないんだから」
 喋ったのは私ではない、幽霊だ、幽霊は長い黒髪を掴みとそれを地面に落とした、どうやらあれはウィッグだったらしい、実際の髪の色は金髪だった。
「えっ幽霊じゃないの…マジで?」
「マジよマジ、まったく、幽霊の噂を流してここに来たやつを嘲笑ってやろうかと思ってたんだけど写真を撮られるとはね」
「マジかよ…マジ…」
「先輩、大丈夫ですか?」
「ていうかマジに幽霊信じてたんだ、ウケる」
 そういえば彼女のことは見たことがある、そう、彼女は…
「思い出しました、あの偽幽霊の名前はニノ次市子、私の隣のクラスにいる不良ギャルですよ」
「あー、私のこと知ってたんだ、都合悪いなぁ、写真まで撮られちゃったし」
「幽霊じゃない…不良生徒…ウガーッ!!?」
「うわ何!?こっち来んな!」
「ちょっと先輩!落ち着いてください!先輩!せんぱーい!!」
 その後私を先輩をどうにかなだめて、ニノ次市子にはこのような幽霊騒動はもう起こさないようにと説得した。
 彼女は憮然としながらもその説得に応じた、先程の先輩の姿を見て流石に気の毒に思ったのだろう。
 そして次の日のこと。
「幽霊を撮りに行くぞ!今度こそ本物だ!」
「ええっと、それってまた私に言ってます?」
(完)